急速に進化するAI技術の最前線
AIの進化が加速度を増す2025年、特に注目を集めているのは「マルチモーダルAI」と「エッジAI」という二つの技術領域です。両者は互いに補完しながら、ビジネスや社会のあり方に革命をもたらしつつあります。本記事では、これらのAI技術の最新動向と実用例、そして今後の展望について詳しく解説します。
マルチモーダルAIとは何か
マルチモーダルAIとは、テキスト・画像・音声・動画など複数の異なる形式の情報を統合し、より高度な判断や生成を可能にする革新的な技術です Study SEC。従来のAIが単一のデータ形式のみを処理する「シングルモーダル」であったのに対し、マルチモーダルAIは人間の五感に近い多角的な情報処理を実現します。
この技術革新により、異なる種類のデータの情報を組み合わせることで、より豊かで深い理解が可能になっています。例えば、画像と音声データを組み合わせてビデオ内の特定のシーンを理解したり、テキストデータとセンサーデータを組み合わせて特定の環境下での活動を分析したりすることが可能です Tdse。
エッジAIの台頭
一方で、2025年はAI処理をクラウドではなくエッジ(端末)側で行う「エッジAI」の採用が大きく広がる年になると予測されています Nikkei。エッジAIとは、スマートフォンやパソコン、IoT機器などの端末側でAIの推論処理を実行する技術です。
エッジAIはデータセンターとの通信が最小限で済むため、伝送するデータ量を抑えて消費電力を下げたり、セキュリティーを強固にしたりできる強みがあります Nikkei。これにより、プライバシー保護やリアルタイム処理が求められる場面での応用が広がっています。
2025年に見るマルチモーダルAIの進化と実用例
技術の発展経緯
マルチモーダルAIの研究は決して新しいものではありません。1980年代半ばから始まった研究は、当初は音声認識や画像認識などのシングルモーダルに焦点を当てていましたが、複数のモダリティを統合することの重要性が次第に認識されるようになりました Tdse。
ディープラーニングの登場によって研究が急速に進み、2013年には、テキストと人間の表情画像をもとに、アバターが内容に合った表情でテキストを読み上げる「Expressive Visual Text-To-Speech」という研究が登場しました Tdse。
そして現在、ChatGPTなどの自然言語処理技術を使った大規模言語モデルの注目度が高まる中、GPT-4VやGemini、Soraといったマルチモーダルモデルの発展が進んでいます Tdse。
最新の応用事例
2025年の現在、マルチモーダルAIの応用範囲は急速に拡大しています。特に以下の分野での活用が進んでいます。
医療分野での活用
医療業界においては、カルテや医療文献などの情報とレントゲン画像をマルチモーダルで見ていくことで、より高精度に疾患を発見することができるという検証結果があります Ey。これにより、診断の精度向上や早期発見が可能になり、医療の質の向上に貢献しています。
製造業での応用
工場の中の画像をAIで判断する場合、シングルモーダルでは画像のみから何がどこにあるのかという把握を行いますが、マルチモーダルでは、さらに工場の運営マニュアルと合わせてAIに解釈させることで、工場が適切に運営されているかまで包括的に把握することが可能です Ey。
セキュリティと認証技術
マルチモーダルAIは複数の生体情報を組み合わせて認証が行えるのが特徴です。生体認証にマルチモーダルAIを組み合わせると、認証エラーを大幅に減らすことができます HBLAB JSC。これにより、より安全で便利な認証システムが実現しています。
解説:マルチモーダルAIのメリット
マルチモーダルAIが従来のAIと比較して持つ優位性は以下の点にあります:
- より豊かな情報処理: 複数のデータ形式を同時に処理することで、単一のデータだけでは得られない洞察を得ることができます。
- 複雑な課題への対応: シングルモーダルAIでは解決が難しい複雑な問題への対応が可能になります。
- 人間の認知に近い処理: 人間が五感を使って情報を得るのと同様に、多角的な情報処理が可能となります。
- より自然なインタラクション: テキスト、音声、映像など様々な形式での入出力が可能になることで、より自然なコミュニケーションが実現します。
エッジAIの最新動向と実用例
エッジAIの市場拡大
2025年に本格化する第2幕では、AIの舞台がエッジ側に移り始めています。それを予感させるかのように2024年には、スマホやパソコンにNPU(AI処理専用半導体)を搭載する「オンデバイスAI」の市場が立ち上がりました Nikkei。
生成AI市場が急拡大するなか、端末にAIを搭載する「エッジAI」がテーマ性を浮き彫りにしてきました Kabutan。これにより、様々な企業が関連製品の開発に乗り出しています。
半導体企業の競争激化
米Qualcomm(クアルコム)や英Arm(アーム)、スイスSTMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)、ソニーグループなどがすでにエッジAI向け半導体の覇権争いに名乗りを上げました Nikkei。この競争は、市場の急速な拡大を背景に激化しています。
日本企業の取り組み
日本企業の取り組みとして、ソニーグループが開発した「エッジAIプラットフォーム」が注目を集めています。同プラットフォームは、高性能な画像認識処理をエッジデバイス上で実現し、工場や店舗での活用が進んでいます TRYETING。
解説:エッジAIのメリット
エッジAIの主な利点には以下のようなものがあります:
- 低遅延性: クラウドへの送信と返信を待つ必要がないため、リアルタイム処理が可能です。
- プライバシー保護: 個人データをクラウドに送信せずにローカル処理するため、プライバシーが強化されます。
- ネットワーク負荷軽減: 大量のデータ送信が不要になるため、ネットワーク負荷を抑制できます。
- 省電力性: 効率的な処理によりバッテリー消費を抑制できるため、モバイルデバイスに適しています。
- オフライン処理: インターネット接続がない環境でも動作するため、安定したサービス提供が可能です。
日本企業のAI技術活用最前線
楽天グループのマルチモーダルAI戦略
日本企業でも積極的な導入が進んでおり、例えば楽天グループは独自開発のマルチモーダルAI「R2D2」を発表し、ECサイトでの商品検索や推薦の高度化に活用しています TRYETING。
また、楽天モバイルは2025年の注力テーマとして「法人×AI(人工知能)」を掲げ、第1弾として法人向けの新たな生成AIサービス「Rakuten AI for Business」を2025年1月29日に提供開始しました Nikkei。このように、通信事業に加えてAI事業を第2の柱として育成する戦略を進めています。
EY Japanのコンサルティングサービス
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社は、次世代の生成AI技術ともいわれる「マルチモーダルAI」を活用してクライアントの新たな価値創出を支援する「マルチモーダルAIを活用した新規価値創出支援サービス」を4月1日より提供しています Ey。
「マルチモーダルAIのとらえ方は非常に多角的で時には人間の常識からは少し距離感のあるものを出してきます。しかし距離感があるからAIの精度が悪いと切り捨てるのではなく、こうした多角的な考え方、観点をいかに刈り取り、人間の常識にフィードバックできるかが、価値を生み出す上でのポイントです」と山本氏は述べています Ey。
2025年のAI市場予測と今後の展望
市場規模の拡大
AIの技術革新と共に、市場規模も急速に拡大しています。PwCの分析によると、2030年までにAIがもたらす経済効果は世界全体で15.7兆ドルに達すると予測されています TRYETING。
マルチモーダルAIの普及予測
Gartnerは、2027年までに生成AIソリューションの40%がマルチモーダルになる (テキスト、画像、音声、動画など複数のタイプのデータを一度に処理するようになる) との見解を発表しました Gartner。この予測は、マルチモーダルAIへの移行が急速に進むことを示しています。
AI人材の需要増加
AI市場の急速な成長に伴い、AI人材の需要も増加しています。世界経済フォーラムの報告によると、2025年までにAI関連の新たな職種が9,700万人分創出されると予測されています TRYETING。
解説:企業が今すべきAI導入準備
2025年に向けてAIを効果的に活用するために、企業が取り組むべきポイントは以下の通りです:
- データの整備: AIを活用するためには、質の高いデータが不可欠です。社内のデータの整理・統合を進めましょう。
- 人材育成: AI人材の確保や、既存社員のリスキリングにより、AIリテラシーを高める取り組みが重要です。
- 小規模な実証実験の実施: 大規模な導入前に、小さな範囲でAIの実証実験を行い、効果と課題を把握しましょう。
- セキュリティ対策: AI導入に伴うセキュリティリスクを把握し、適切な対策を講じることが必要です。
- 倫理的配慮: AIの活用における倫理的問題に対する方針を明確にしておきましょう。
マルチモーダルAIとエッジAIの融合がもたらす未来
自動運転技術の加速
自動車の自動運転レベル5(あらゆる場所での自動走行が可能でハンドル操作を必要としない運転システム)の将来的な実用化を目指し、さまざまな研究や検証が行われています。高度な自動運転技術の研究において、マルチモーダルAIの活用が世界で注目されています Murata。
多数のセンサで得られる自動車の内部や外部のデータ、無線通信で得られる位置やほかの自動車や交通状況に関するデータ、搭乗者との音声データな、多様なデータをマルチモーダルAIが統合的に処理できる能力は、自動運転の制御に欠かせない技術といえます Murata。
スマートシティの実現
マルチモーダルAIとエッジAIの融合は、都市全体のインフラ管理や交通制御、防犯・防災システムなど、スマートシティの実現にも大きく貢献すると期待されています。センサーデータと画像データ、過去の統計情報などを組み合わせた高度な予測や対応が可能になるでしょう。
ヘルスケアの革新
ウェアラブルデバイスから得られる生体データと患者の問診情報、医療画像などを組み合わせた総合的な健康管理や疾病予測が可能になります。エッジAIによるプライバシー保護とリアルタイム処理の組み合わせは、特に医療分野で価値を発揮するでしょう。
課題と今後の方向性
データの統合と標準化
マルチモーダルAIの活用において、異なる形式のデータを効果的に統合するための標準化が課題となっています。業界横断的なデータ形式の標準化が進めば、より幅広い応用が可能になるでしょう。
計算リソースの最適化
エッジデバイスでの処理能力には限界があるため、どのような処理をエッジで行い、どのような処理をクラウドで行うかという「計算リソースの最適配分」が重要な課題です。両者のバランスを取りながら進化していくことが予想されます。
倫理的・法的課題への対応
AIの進化に伴い、プライバシー保護や責任の所在、バイアスの問題など、様々な倫理的・法的課題が浮上しています。技術の進化と並行して、これらの課題に対する議論と対応策の整備が不可欠です。
まとめ:2025年のAI革命を牽引する二大技術
2025年のAI技術トレンドを牽引するマルチモーダルAIとエッジAIは、単なる技術革新にとどまらず、ビジネスモデルや社会システムを根本から変革する可能性を秘めています。これらの技術が融合することで、より人間に近い判断能力と、プライバシーやセキュリティを確保したリアルタイム処理の両立が実現し、新たな価値創造の機会が広がることでしょう。
企業はこれらの技術トレンドを把握し、自社のビジネスにどう活かすかを考えるとともに、必要なデータ基盤や人材育成にも取り組むことが重要です。AIの波に乗り遅れることなく、新たな時代の競争優位性を確立することが求められています